宇宙で実験する「AI研究者」を創出──LLMが観察・判断・操作をつなぐ自律実験基盤に関する2件の特許を共同出願
スペースシードホールディングス株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:鈴木健吾、以下「当社」)は、子会社のリジェネソーム株式会社、株式会社IDDK、株式会社スペースノーム研究所と共同で、LLM(大規模言語モデル)を含む機械学習モデルを活用し、細胞培養や各種の科学実験を自律的に進行させる装置・制御技術について、2件の特許を2026年6月10日に出願したことをお知らせいたします。
出願した2件は、「細胞実験用統合自律実験装置およびその制御方法」(特願2026-097387)と、「実験モジュール統合制御装置およびその制御方法」(特願2026-097380)です。いずれも当社、リジェネソーム株式会社、株式会社IDDK、株式会社スペースノーム研究所による4社共同出願です。
本2件は、単一の細胞培養装置にとどまらず、微細藻類・微生物、細胞・オルガノイド、創薬スクリーニング、再生医療、材料合成など、異なる科学領域の実験を自律的に設計・実行・解析する共通基盤への第一歩と位置づけています。
背景:研究者が隣に立てない宇宙で、実験をどう進めるか
宇宙(軌道上・月面)では、研究者が装置の隣に立つことはできません。電力・容積・通信帯域が限られ、通信には遅延や途絶も生じます。そのため、これまで人が担ってきた「観察する/解釈する/次の操作を決める」という営みを、装置の内部に組み込む必要があります。私たちが目指すのは「自律する研究室」です。
世界では、実験計画から装置操作までを自動で進める「Self-Driving Laboratory(自律実験室)」の研究が進展しています。例えば、LLMを中核に文献調査・計画・装置操作を担う化学分野のCoscientistや、新しい無機材料の合成を閉ループで自律探索するA-Labといった取り組みが知られています。これらの概念を、通信・電力・容積が限られる宇宙へ展開するには、特定の実験を自動化するだけでは足りず、複数の機器を共通の制御層で連携させる仕組みが必要になります。今回の2出願は、「細胞実験に特化した自律制御」と、「分野を超えて装置を組み替える上位の統合制御」という、相互に補完しあう2つの階層から構成されています。

出願技術1:細胞実験用統合自律実験装置(特願2026-097387)
本技術は、培養容器、顕微観察部、送達機構(培地・試薬・生理活性物質)、環境制御部(温度・pH・溶存酸素・CO₂・光)を一体として統合した装置です。顕微鏡画像、センサ値、送達履歴という異種のデータを共通の文脈として機械学習モデルに入力し、物質の送達と環境の調整という複数の操作を決定し続けます。
あらかじめ決めたスケジュールを再生するのではなく、観察された細胞の状態に応じて次の操作を変える点が特徴です。1G環境と微小重力環境とで液送の方法を切り替えるほか、気泡の混入を画像やセンサで検知し、送液速度の低下、放出の一時停止、パージといった回復動作を行うことも対象としています。
出願技術2:実験モジュール統合制御装置(特願2026-097380)
本技術は、細胞実験に限定されない上位の制御基盤です。観察、液送、培養、環境制御、分析、材料合成、物性評価など、機能の異なる実験モジュールを共通のインターフェースで接続し、画像・数値・スペクトル・操作ログをLLMが横断的に解釈して、各モジュールへ実行指令を配信します。モジュールを差し替えることで、同じ基盤を別の用途へ再構成できます。
共通のプロトコルに準拠していれば、第三者が開発したモジュールであっても、LLMがその仕様を読み取り、大規模な作り込みなしに追加できます。通信が良好なときはクラウド上の高性能モデルを、遅延や途絶が予測されるときは装置側のローカルモデルを用いるというように、推論の主体を切り替えるエッジ・クラウド協調も特徴です。個々の装置を動かす制御ソフトというより、「科学実験のオペレーティングシステム」に近い構想です。

4社の背景
株式会社スペースノーム研究所は、回収衛星「あおば」(2026年後半以降に打上予定)において、株式会社IDDKのレンズレス顕微観察を活用し、ユーグレナを微小重力下で観察する計画を進めています。株式会社IDDKとリジェネソーム株式会社は、2024年12月に宇宙実験用エクソソーム生産装置の共同開発に関するMOUを締結しています。リジェネソーム株式会社は、エクソソーム等のナノ粒子やウイルスベクターの生産性を向上させる技術を有し、2026年3月にはGood Hero Therapeuticsおよびユーグレナと、エルゴチオネインによるウイルスベクター生産性増強技術を共同出願しています。材料分野では、当社の合金マテリアルズ・インフォマティクス探索システムと、岡山理科大学・森嘉久教授との超高圧SPS共同研究を、自律的な材料探索ループへとつなげていきます。

想定する応用
・微細藻類・酵母・細菌の培養条件の探索
・細胞・幹細胞・オルガノイドの培養および分化条件の最適化
・薬剤候補・培地・生理活性物質のスクリーニング
・エクソソーム・ウイルスベクターの生産条件の最適化
・合金・セラミックス・半導体など材料の合成と評価
・微小重力・放射線・低酸素といった極限環境での実験
・地上と軌道上で共通の装置・プロトコルを用いた比較研究
今後の展開
当社は、まず地上での装置統合と閉ループ制御の検証を進め、クリノスタット等を用いた模擬微小重力試験、通信制約下でのローカル推論試験へと段階的に取り組みます。そのうえで、超小型宇宙実験モジュール「SpaceAgent」への実装を段階的に検討していきます。あわせて、関連する技術を持つ大学・研究機関・企業との共同研究を推進します。当社は宇宙利用研究事業を通じて、研究テーマの設計から、地上模擬、超小型モジュールの開発、軌道上実験、データ解析、知財の取得・活用までを一貫して支援してまいります。
代表コメント
地上の研究室では、研究者が顕微鏡像を見て、細胞や微生物の状態を判断し、培地や試薬、温度やガス条件を細かく調整しています。しかし宇宙では、研究者が装置の隣に立つことはできません。地上で人が担ってきた観察、解釈、操作の往復を、装置の中に移植する必要があります。今回の出願は、LLMを会話のためだけに使うのではなく、実験データを読み、次の操作を考え、その理由を記録する「研究の制御層」として活用するために設計したものです。私たちは、微生物、細胞、創薬、再生医療、材料科学を、別々の研究領域としてではなく、観察と仮説検証を繰り返す共通の研究ループを行う対象として捉えています。地上で育てた研究装置が、そのまま軌道上や月面でも研究を続けられる未来をつくり、宇宙を人類の新しい実験場へ変えていきます。
――スペースシードホールディングス株式会社 代表取締役 鈴木健吾
特許出願の概要
・特願2026-097387「細胞実験用統合自律実験装置およびその制御方法」(出願日:2026年6月10日)
・特願2026-097380「実験モジュール統合制御装置およびその制御方法」(出願日:2026年6月10日)
出願人:リジェネソーム株式会社、スペースシードホールディングス株式会社、株式会社IDDK、株式会社スペースノーム研究所
※本発表は特許の出願に関するものであり、現時点で特許権の成立・登録を意味するものではありません。
スペースシードホールディングス株式会社について
スペースシードホールディングス株式会社は、「SFをノンフィクションにする」をミッションとして、投資活動、研究活動ならびに事業創出を行う宇宙系ディープテックベンチャービルダーです。発酵とロンジェビティー技術の社会実装を支援する「Fermentation and Longevity Fund」プログラムの運用などを軸に、社会課題を解決する事業の創出に取り組んでいます。2040年までに各種ステークホルダーとともに、人類が宇宙空間で居住するのに必要な技術を揃えることを目指しています。