10GPa超を安定発生する「超高圧SPS装置」を開発──岡山理科大学との共同研究で材料の低温合成へ
スペースシードホールディングス株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:鈴木健吾、以下「当社」)は、岡山理科大学・森嘉久教授らとの共同研究において、10GPa以上の超高圧を安定して発生できる新方式の放電プラズマ焼結(SPS)装置を開発したことをお知らせいたします。本成果は、粉体粉末冶金協会2026年度春季大会(2026年5月末・大阪、講演番号3-9A)にて発表しました。
発表演題は「クランプ式高圧発生装置を組み合わせた超高圧SPS装置の開発」、発表者は森嘉久¹・亀山寛司¹・鈴木健吾²(1. 岡山理科大学/2. スペースシードホールディングス株式会社)です。
背景:超高圧焼結における「定量評価の壁」
SPS(放電プラズマ焼結)は、一軸加圧した粉末にパルス電流を流し、短時間・低温で緻密な固体に焼き固める成形手法です。圧力を加えることで、材料は常圧とは異なる挙動を示します。研究グループはこれまでに、圧力を加えるとSiO₂(二酸化ケイ素)のガラス化温度が大きく低下することを報告してきました。
一方、従来のピストンシリンダー型による超高圧SPSでは、試料がサブミリと極めて小さく、圧力や温度の分布も不均一になりがちでした。そのため「どの圧力・どの温度で、何が起きたのか」を定量的に評価することが難しいという課題がありました。
今回の成果:クランプ式高圧発生装置を組み合わせた超高圧SPS装置
研究グループは、6つのアンビルで試料を等方的に加圧する「パームキュービック(palm cubic)」型を基盤に、新たにクランプ式の高圧発生装置を開発しました。これにより、均一な圧力場のもとで、従来より大きな試料を扱えるようになりました。
圧力の較正には、ビスマス(Bi)の相転移を圧力定点として利用しました。30トン荷重のもと、4本のクランプネジのトルクを制御することで、トルク100N·mでBi II–III転移(2.70GPa)、50N·mでBi I–II転移(2.55GPa)を確認しています。加熱は約100Aの通電で1273K近傍まで可能で、70Aでは試料近傍のみが高温となり、装置本体の温度上昇を抑える断熱的な構造となっています。
検証としてSiO₂をSPS焼結したところ、回収した試料は直径約2mm・高さ約1mmのミリスケールに達し、従来比で大幅に拡大しました。さらに、トルク75N·m・873Kという低温条件で透明なガラス化を確認しました。これは従来のピストンシリンダー型における約2GPa・873Kでの結果に匹敵するものです。

技術のポイント
・10GPa超を安定発生:6アンビルのpalm cubic構造をクランプ式に応用し、超高圧を安定して発生します。
・均一な圧力場と大容積試料:圧力分布が均一で、従来比で大きいミリスケールの試料を扱えます。
・ビスマス相転移による圧力較正:Biの相転移を圧力定点として用い、発生圧力を定量的に把握します。
・局所加熱の断熱構造:100Aで1273K近傍まで加熱可能。70Aでは試料近傍のみを高温に局在させ、本体の温度上昇を抑えます。
・低温・低圧側での透明ガラス化を確認:圧力が単なる緻密化の因子にとどまらず、「材料の状態を制御する設計因子」であることを実証しました。
想定する活用シーン
本装置は、新規材料の低温合成、非平衡状態の制御、ダイヤモンドやc-BN(立方晶窒化ホウ素)など高圧で合成される材料の探索などへの活用が期待されます。「作ってみないとわからなかった材料づくり」を、条件を見通しながら設計する段階へと進めることを目指します。
今後の展開
研究グループは今後、加熱した状態での圧力同定を進め、圧力・温度較正の精度をさらに高めていきます。当社は森嘉久教授との共同研究を継続し、材料合成データの蓄積を進めるとともに、宇宙利用研究事業「SPACE LAB.」を含む自社の材料・プロセス開発へと展開していきます。本次世代高圧SPS技術については特許を出願済みであり、これを基盤として権利化と事業化の両面で活用してまいります。
代表コメント
圧力は、ものを縮めて固めるためだけの力ではありません。私たちは、圧力を「材料の状態そのものを書き換える設計図のペン」として扱いたいと考えています。今回、森嘉久教授と進めてきた装置開発で、条件を正確に測ることが難しかった超高圧焼結を、均一な圧力のもとでミリサイズの試料として手にできるようになりました。条件を見通しながら材料を設計できる入り口に立てたことに、大きな意味を感じています。SS-HDが掲げる長期目標は、2040年までに人類が宇宙で暮らすために必要な技術を揃えることです。地球から運べる物資が限られる宇宙では、その場にある資源から、必要な材料を低いエネルギーでつくり出す技術が欠かせません。圧力を巧みに使って低温で材料を合成するこの装置は、その未来に向けた基盤技術のひとつになりうると考えています。「SFをノンフィクションにする」──その歩みを、確かな実験と検証で一段ずつ前へ進めていきます。
――スペースシードホールディングス株式会社 代表取締役 鈴木健吾
スペースシードホールディングス株式会社について
スペースシードホールディングス株式会社は、「SFをノンフィクションにする」をミッションとして、投資活動、研究活動ならびに事業創出を行う宇宙系ディープテックベンチャービルダーです。発酵とロンジェビティー技術の社会実装を支援する「Fermentation and Longevity Fund」プログラムの運用などを軸に、社会課題を解決する事業の創出に取り組んでいます。2040年までに各種ステークホルダーとともに、人類が宇宙空間で居住するのに必要な技術を揃えることを目指しています。